セルフとパーツの対話(その3) 内側での愛着形成【IFSエッセンス解説】

前回まで書いた「セルフとパーツの対話 その1」「その2」では、対話の中身がどういう流れなのかを説明した。
今回は、「愛着形成」という視点を紹介してみたい。

自身の内側で愛着を形成する
個人的には、ここがIFS/パーツワークの要でもあると思っている。

愛着理論というものがある。
幼少期の育ちの過程で親や養育者との関わりにおいて、どういうタイプの「愛着」を持つかというもの。言葉を変えれば、どういう「絆」や「関係性」を持てるかということでもある。

安定型、回避型、葛藤型、無秩序型という分類がされている。
この幼少期の経験が大人になっても大きな影響を持っていて、人と人との関係に現れてくる。
人との親密な関係を回避したり、そこが無秩序になったりなどなど。

また、その人の中でどういった人間観、世界観を形成するかにも深く関わっている。
愛着が安定的でないと、「世界は危険なところだ」、「私は愛されない」、「私は無価値だ」などなどの信念を持つ可能性もある。
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セルフとパーツの対話の流れ(その2)セルフコンパッション【IFSエッセンス解説】

前回のその1はこちら

引っ越しの例に戻ろう。
自分のリアルな感覚として気になったのは引っ越しについて考える際に出てくる「胸のあたりの重さ」だった。そのパーツの声を聴いていく。
そのパーツはオドオドさんという名前を持っていた。
慎重に物事を進める役割を持っていて、あまり大きな責任を負いたくないとも言っている。

この時に、「いや、大丈夫だよ。これが時代の流れだし、そこに乗ったら良いんだよ」という他パーツの声も出てくる。違う意見や横槍が入ることで、当初話を聴いていたパーツの声がかき消されてしまったり、話が混線してきて深く聴けなくなることが多い。

横槍が入った時にはそのパーツとブレンドしている状態と捉える。「いや、大丈夫だよ」と言っている声をパーツとして捉え、その意見を認め、受け止めつつ「今は、オドオドさんの話を聴きたいから少し下がっててもらえるだろうか」とお願いしてみる。

下がってもらうことで、再びアンブレンドができてセルフからオドオドさんの話を聴いていける。
他のパーツが出てきても一旦下がってもらうことで、セルフエネルギーに繋がり続けることができる。
そうすることで、ひとつのパーツの声を丁寧に深く聴いていくことが可能になる。
オドオドさんの話を聴いていくと以下のことが浮上してきた。

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セルフとパーツの対話の流れ その1【IFSエッセンス解説】

IFSのセッションプロセスの中で生じていることを簡単に表現すると、「その人セルフとパーツの対話」だ。セラピストは基本的にそれをサポートする人。

セルフは、当人の精神性やスピリチュアルなエネルギー。
パーツは、批判的だったり頑固だったり怠け癖だったりといった人間らしい側面。
そんな捉え方もできる。

この内面での対話は経験してみないと分からないかもなぁ、と思いつつ、どういうことなのかを表現してみたい。

例があった方が分かりやすいので、先日自分の中で生じていた葛藤を題材にしてみたい。

簡単に表現すると「福岡県内の特定の場所に引っ越すか」「その場所には引っ越さずに別の場所を探すか」「引っ越し自体をせずに現状に止まるか」ということ。

2月頃にご縁が繋がり、すぐにでも居住可能な古民家を紹介してもらった。
移住という大きな決断でもあり、すぐには心が決まらず、右往左往する。

「引っ越ししようぜ」と言っているパーツの声
これはそういう流れなんだ。
環境も良いし、いろいろな潜在的可能性も高い。
友人一家もすぐ近くに住んでいる。
コミュニティを創っていくことをしたいなら、条件が揃っているじゃないか。
などなど。

「いやぁ、どうかなぁ」と言っているパーツの声
家が広すぎるし、長く住むにはそれなりの改修も必要なんじゃないか。
子育て世代がとても少ないし、これから増える可能性が本当にあるの?
「山が付いている」って聞いてたけど、そこまで広くないし。
まだそんなに知らない土地だし、焦って決めるのもどうかなぁ。
などなど。
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「わたし」の中にあるシステム【IFSエッセンス解説】

前回までの解説でパーツとセルフの基本を押さえた上で、今回は「わたし」というものの中身をIFSではどのように捉えるのかについて書いてみたい。

「パーツとは?」の項目で「わたし」についてこう書いた。

「わたしとは何か?」という問いには、多様なパーツを内側に抱えていて、そのダイナミックな相互作用の中で立ち現れる存在とでも言えそうです。

この多様なパーツとは別の存在として、セルフが「わたし」の中心に在る。


多様なパーツのイメージ

パーツを捉える際に、「リソース」「プロテクター」「エグザイル」という視点がある。
リソースはシステムに貢献する資質を発揮しているパーツだ。例えば、私自身の中のリソースに目を向けてみると、以下のような働きがあると思う。
「要素と要素を結びつけて、新しいものを作り出すインスピレーションと発想力」
「複数の資料や文献を理解し、それをまとめ、独自の視点を提供するスキル」
「直感的に本質や本物を嗅ぎ分ける能力」
「薪や山菜、野草などの身近な資源を活用し、暮らしに取り入れるスキル」などなど。
こういったリソースとしてのパーツが働いてくれることで、私のシステム全体も良い感じに機能していく。

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「セルフ Self」とは?【IFSエッセンス解説】

スピリチュアルな伝統の中でよく語られる「存在/質感」
ハイヤーセルフ、魂、仏性、コアセルフ、純粋意識、神聖なエネルギーなどなど。
言ってみれば「悟った状態」。
この状態は内側にも外側に対してもジャッジがなく、落ち着きと明晰さがあって、思いやりに満ちている。愛から生きている、愛そのものという感じ。

IFSではその存在/質感を「Self セルフ」と表現している。

これは修行することで到達する状態というようにも捉えられていると思う。
自分もヴィパッサナー瞑想などを通して、そんな状態を目指していた。
心の浄化を通して、到達できる境地。

この状態が、人間が生まれながらにして持っているエネルギーとつながることで、実はいつでもどこでもたどり着けるものだとしたらどうだろう。
そのためにはセルフのエネルギーを覆ってしまっていたり、セルフ以上に影響力を持っているパーツを認識して、距離を取ること。
大抵は、覆われていること自体に自覚がない。
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パーツについて 補足【IFSエッセンス解説】

セルフ概念を紹介する前に、もう少しパーツに関して補足をしておきます。

「良い/悪いを超えたところ」
Rumiの有名な詩

間違ったこと正しいことという考え方を超えた所に
場が広がっています。そこで会いましょう。


NVCの文脈でもよく引用されていて、「間違っている/正しい」ではなくて、「何を大切にしたいのか」というニーズに注意を向けるということが言われています。
これを自分の内側の世界、つまりパーツとの関係性で実践するのがIFSのやり方。

IFSではパーツを「良い」「悪い」という視点からは捉えません。
すべてのパーツがシステムに貢献しようとポジティブな意図を持って動いている。

例えば、お酒をつい飲んでしまうパーツがいたとします。
「そんなに飲みたくもないんだけど、ついついプシュっとあけてしまうんだよな」という感じ。
その声を丁寧に聴いていくと、「一人の寂しさを紛らわしたい」「自分が孤独だということを味わいたくない」という意図があったりします。
そのパーツのさらに奥には「寂しさ」や「孤独」を抱えたパーツもいそうです。

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パーツとは?【IFS エッセンス解説】

NVC、サイエンズ、マインドフルネスなどなど自分が色々な手法を学んでくる中で、「これは面白い!」と心から思えているIFS (Internal Family System) というセラピーの手法。

そのエッセンスをポイントごとに表現してみたい。
セッションを受けてくださる方への資料的な位置づけと同時に、自分とのつながりや自己共感、自己受容といったことに関心がある方へのインスピレーションにもなったら良いな、という意図を込めて。同時に、英語の資料は山ほどあるけど、日本語のリソースは限られているのでその点でも関心ある方々へ貢献できたら嬉しい。

【パーツとは?】
IFSでは、「わたし」というシステムは内部に複数の人格を抱えた存在として捉えます。自分に厳しい自分、人に批判的な自分、お調子者の自分などなど。その自分の一側面を「パーツ」という言葉で表現します。

みなさんの中にもいろいろな自分のパーツ/側面/特徴といったものがありますよね。
「パーツ」という言葉が部品的なイメージも持っているため、「〜〜な側面」とか「キャラ」とか「〜〜な存在」といった言い方もできます。
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