田んぼを田んぼにする

田んぼ仕事の中心は、「田んぼを田んぼにすること」だと思う。
「百姓は米を作らず、田を作る」というフレーズがある。
田んぼの営みに関わると、心からそれを実感する。

11月に天日干しが終わった田んぼは、ワラをばらまき、しばし休息。
秋に耕すケースもあるが、そういったことは一切せず、自然に草が生えるに任せる。

4月後半になると僕が扱っている田んぼはレンゲが一面に咲く。
上の田んぼからこぼれてきた種が発芽し、それが毎年循環している。
まったく種まきをしていないのに、これだけ育つというのが驚きだ。

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このレンゲを草刈りするのだが、タイミングが大切。
これは集落の先輩に教えてもらったこと。
「あんたね、レンゲは種が黒く熟してから切りなさい。そしたら、充実したこぼれ種から来年又草が生えてくる。今切ったら、種が未熟だからな、まだ早いばい」と。へー、と思ってその通りにしてみた。
すると、翌年、レンゲが田んぼ全体に咲き乱れた。

田植えを6月中旬から後半ぐらいにするのだが、レンゲが種を付ける5月中頃に草刈りをする。何年かやっていて分かって来たのは、ある程度、レンゲの種子が緑色であっても、刈り倒した後に黒く充実してくる。だから、チラホラと黒く充実した種があれば、そのタイミングで草刈りが出来る。

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草を刈った後は、10日間ぐらい乾燥させる。「あんた、草は焼いた方がいいばい」というアドバイスもあるが、草は焼かない。百姓の先輩からは「草を焼くなんてもったいないわい。煙が出るやろ。あれがチッソ分よ。まったく、労力かけて草を燃やして、金かけて肥料播いてもしょうがあるまい」と。
そして、パリパリに乾いた草が敷き詰められたところに、耕耘機で入っていき、軽く耕す。
草を切ってからあまり間を置かずにこの作業をすると、草が耕耘機の刃に絡まってなかなか仕事がしづらい。今年は、乾きが良かったからか、ほとんど絡まずに、スムーズな作業ができた。

耕した田んぼに、水を引き込む。雨が少ない年は、この段階で水が少なくて困る。水がなければ、田んぼは整わない。今年も雨を待っての作業。一雨で、ちゃんと田んぼに水が来るようになり、代掻きが出来る状態になる。
田んぼに水を引き込みながら、耕耘機で土を泥に変え、さらにトンボでならしていく。水は一気には広がらず、ジワジワと浸透していく。なので、30分〜1時間程度の作業をして、半日〜1日おいて、また作業をしてという繰り返し。

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この作業、傍目からは大変そうに見えるらしいが、やっている本人は愉しくてしょうがない。田んぼが田んぼになっていく瞬間というか、水が徐々に田んぼに満ちていく時間は心躍る。
機械に頼りつつも、自分の身体を動かすことで、田んぼというシステムが立ち上がっていく充実感。

水が全面に張るようになったら、様子を見つつ、畦を整える。
クワで畦を削り、足で踏みつけてモグラの穴を塞ぎ、またクワで泥を塗っていく。
これをしておかないと、田んぼが崩れるリスクが高まる。
3年目ぐらいの時に、一度、畦が崩壊したこともある。

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慣れればなんてこと無い作業だし、そこまで大きな田んぼではないので、筋トレと瞑想を兼ねた時間。と言いつつも、この部分は意外とハードな仕事。
ちなみに、畦が弱くなってきているところは、土嚢を積んで補強しておく。

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これらのプロセスを経て、ようやく田んぼが立ち上がってくる。
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水を張った状態で、1週間〜10日ほど置いておく。そうすることで、刈り倒したレンゲなどの草の分解が進む。未分解のまま田植えをすると、その後に発生するガスで稲が痛むという話がある。

そして、田植えの直前にもう一度耕耘機をざっとかける。そうすることで、初期の雑草を押さえる。

今年は、かなり時間的な余裕があったので、のんびりと作業をすることが出来た。
田んぼと言うシステムが自然の力に頼って整えられることで、その環境の中で米が育つ。
「百姓は米を作らず、田を作る」